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 ユィマは、聖域の奥、どことも知れぬ場所で、女神の暗黒部分と闘っていた。
彼女の槍が暗黒の女神を貫いた瞬間、何かが音たてて変わった。一つの時代が終った瞬間だったのだと気付いたのは、もっと後になってからのことだった。
 その瞬間、女神の半身は、暗黒から七色の光の塊に変わり、まばゆい輝きを放って、みるまに周囲に溶けていった。そして、闇の半身を完全にとりこんだマナの木は、自ら圧倒的な輝きを放ちながら実在化し始めた。
"それが最後の封印でした"
「えっ?」
ユィマはどこからか聞こえる女神の声に顔をあげた。
"闇も光も私の一部。どちらかだけでは成立しない。自らの闇を知ることによってのみ、自らの本当の姿を見ることができる。今や、私は本当の姿を取り戻した"
「本当の…姿?」
"そう、私はあなた。あなたは私。何もおそれないで。世界は愛に…マナの力に満ちています"
ユィマはゆっくり女神の言葉を心のなかで反芻した。
「…わかったわ、マナの女神。なんとなく、だけれど…」
"それでいいのです。あなたの愛に祝福を"
「ありがとう!女神様にも祝福を!」

 その瞬間、眼もくらむ光に包まれたかと思うと、ユィマは見覚えのある場所に立っていた。それは聖域の門の奥、道のない最上地の広場だった。
 白竜ヴァディスのドラグーンであり、同行の友人でもあるシエラはすぐ側に立っていた。忠実なペットのラビは、熱血的に主人の胸に飛びついてきた。
「ユィマ、これを見て!」
 美しい女ドラグーンは、興奮して両手を振りかざした。
「!?草人…?…あんなにたくさん??」
 それは、世にも不思議な光景だった。
 見える限りの空間は、ふわふわと舞う草人達で埋め尽くされていた。どの草人も頭上に赤いたんぽぽのようなふわりとした花を咲かせ、風にのって、マナの木のあちこちに舞い降りていく。一人舞い降りるたびに、その部分から光が広がってゆく。
"ぼくらはマナの木を直しにゆくの!"
ユィマの胸の中に、草人の言葉がこだました。
"ぼくらはみんなでひとりなの""みんなつながっているの"
「こういう事だったのね…」
「ユィマ?」
ユィマは首を振った。「なんでもないわ。なんてきれい…」

 二人と一匹は、言葉少なに、しかし満ち足りた気分で巨木の内部を降りていった。上ってくる時に見たモンスター達は影も形もなかった。あたりには、無害な生き物達が葉ずれの音を立てているばかりだった。
「モンスター達がいなくなってる…。」
「きっと、世界が変わったのだ。」シエラは、器用に枝を滑り降りながら、額にかかった紫色の美しいたてがみを振り払った。
「早くヴァディス様にお会いしたい。…なんておっしゃるだろう?」
「私も…あの子達に話してあげたいな。」
 バドとコロナ、あの双子はきっとやきもきしながら帰りを待っているだろう。それにサボテン!あの子はいったいどんな感想をきかせてくれるだろうか?
 シエラは、ふっと小声で呟いた。
「ラルクにも…話してあげたいな…。」
 ユィマは、姉の顔をした女戦士の背中をぽんと叩いた。二人は顔を見合わせ、満足そうに頷いた。

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